赤道原則の説明

前回、赤道原則の事を書きました。せっかくですから赤道原則の要約を簡単に書いておきます。いつものブログは思いつきで書いていますが、今回は少し計画を立てて書きましたので、多少読みやすいと思います。

投資プロジェクトと環境問題

投資プロジェクトと環境問題の関連は多岐にわたるが、ここではプロジェクト・ファイナンスの分野に焦点を当てる。プロジェクト・ファイナンスとは、事業計画や借り手企業の信用度などを含む事業その物の期待収益を基にして、投資額を決定する事である。これは大型のインフラ整備プロジェクトなどを行うために、プロジェクトの価値をプロジェクトで確保し、親会社には債務不履行の責任を追及できない(non-recourse)又は限定的にしか追及できない(limited recourse)資金調達構造になっている。 大型のインフラ・プロジェクトは本来、世界銀行や国際金融公社(International finance corporation)などの政府や国際開発機関などによる公共事業である。それらの公的機関の代わりに融資するために、 民間投資銀行は通常複数の銀行と、時には公的機関と、シンジケートの構造を作る。

民間投資銀行の環境と社会的責任は増大している。例えば、世界銀行は、中国最大の河川である長江のをせき止める三峡ダムの建設が環境や社会的なリスクが大きすぎるとして、融資をすることを断ったが、ある民間投資銀行が融資する事になったので、このダム建設は試行されることになった*1。この事実は、プロジェクトがどれだけ環境と社会にインパクトを与えているかを民間投資銀行自身で認識しているかどうかを、監視することが重大であることを示している。

国際金融公社の保障処置方針と赤道原則

金融部門からも環境マネージメントを進める動きがないわけではない。例えば、1998年に国際金融公社は環境と社会問題を管理するための業績基準を、民間事業環境と新興成長市場に設定した*2。新しい国際金融公社の保障処置方針(safeguard policies)は2006年に完成し、それは投資プロジェクトだけに適用されるだけでなく、政策と実績をはかるための国際金融公社の基準となった*3。 新しく広げられた基準の一つは、公害の防止と軽減である*4。加えて、方針は二酸化炭素排出にも言及している。

「赤道原則は、プロジェクト・ファイナンスによる環境と社会的リスクの原因究明、評価、並び、管理に関する金融部門からの一つの試み」 "an industry approach for financial institutions in determining, assessing and managing environmental and social risk in project financing"であると同原則のウエブ・サイトに記載されている *5。2003年にいくつかの国際的投資銀行の主導により、この一組の原則は国際金融公社の保障処置方針を元に制定された。赤道原則は2008年5月現在、60の金融機関が自発的に採択している。その為、赤道原則はプロジェクト・ファイナンスでの、環境と社会問題を処理するための業界標準となっている。

赤道原則を履行するためには、民間投資銀行は投資プロジェクトをAとBとCの三つのカテゴリーうちの一つに分類しなくてはいけない。そして、これらの分類は国際金融公社の社会環境審査基準を元にしている。グループAは社会的又は環境的脆弱性が一番大きくなる可能性があるグループであり、グループAとBに分類された全てのプロジェクトに国際金融公社の保障処置方針と世界銀行と国際金融公社の公害防止と軽減のガイドライン(World Bank and IFC and Abatement Guidelines )に沿った、環境影響評価(EIA)を施行する義務がある*6。スポンサーは、グループAに分類される全てのプロジェクトと、ある一部のグループBのプロジェクトに、多くの利害関係者と相談するためと実施内容を報告するために、さらに環境管理計画(EMP)を施行する義務がある。

これらは良い取り組みであるが、色々な赤道原則に関する問題点が指摘されている。問題点は大きく分けて3つのエリアに分類される: 1) 赤道原則の有効範囲、2) 実装手順、3) 履行の仕組み。1)の有効範囲に関して、赤道原則は5000万米ドルを越えるプロジェクト・ファイナンスのプロジェクトにしか適用されない。プロジェクト・ファイナンスの数は増えてきているが、比較的には、まだ他のプロジェクトに比べたら少ない。2)について言えば、 赤道原則の実施は、それぞれの赤道原則を導入した民間投資銀行に、自発的行為として完全にまかされている。そして、3)は、全く法的な履行の仕組みがないことを示している。すなわち、民間投資銀行は、それぞれの自分の基準でプロジェクトを分類して審査する事になりうる。最悪の場合、この状況はフリーライディングの問題になるだろう。赤道原則の規制を承諾しているはずの民間投資銀行が、法的規制がないためにその政策に従わないことである。

赤道原則の範囲内で、天候リスク評価とその関連の管理計画を設定することは、赤道原則の有効範囲を広げる事になるので、一番目の問題に分類される。現在のところ、赤道原則に加盟している銀行は地域レベルの社会的問題と環境の問題に集中している。もし、地球規模のリスクである気候変動問題を赤道原則で扱うとした場合、これが一番の制限になってくるだろう。現在の所、エネルギー・インフラ建設が一番多くプロジェクト・ファイナンスが使われている事業である。それは全体の39%のプロジェクトに及ぶ *7。この割合はアメリカではさらに大きく、56%のプロジェクト・ファイナンスはエネルギーのインフラの建設である。とりわけ、赤道原則の第二版では、温室効果ガスの排出について簡単に述べられているだけであり、「適応策」に関しての問題は一切述べられていない。

過去の「赤道原則」の話

すこし、マイクロ・ファイナンスの動きが面白くなってきました。前にも、マイクロ・ファイナンス金利が高すぎて自殺者が出るぐらいだと書きました。これらの問題が投資銀行が作った赤道原則に従うことで、改善されるかもしれません。改善が要求されている箇所は、金利だけにどどまらず、利用者の教育や透明性も含んでいます。これらは投資銀行も赤道原則内で批判されていることなので、赤道原則自身の改善につながるかもしれません。

以下の図表の通り、上位10行は全て欧米系で、その内4行が英銀、3行が米銀である。残念ながら、アジア系では22位の三菱東京UFJ銀行が39点でトップである(注5)。

OECDが輸出信用機関(ECA)に課している、環境マネジメントの方針が先月改定になったらしい。その「コモン・アプローチ」と言われる内容を見てみると、これまた赤道原則やIFCのPerformance Standardsにそっくりである。日本貿易保険におけるガイドラインもコモン・アプローチに併せて制定されている。

日本の「島国根性的」は対応が見られる。この分野で、今一番進んでいるのは赤道原則(Equator Principles)である。世界のトップ40ぐらいの投資銀行がこの取組を採択している。日本の銀行で採択しているのは、みずほ銀行だけである。そのみずほ銀行も採択したのはかなり後になってからである。

*1:AMALRIC, F., 2005. The Equator Principles: A Step Towards Sustainability?

*2:MILLER, P., 2006. IFC performance standards.

*3:IFC, 2006. 2005 Sustainability Report. Washington, D.C.: IFC ページ20

*4:同、ページ21

*5:IFC, 2006. 2005 Sustainability Report. Washington, D.C.

*6:Amalric 2005 ページ2

*7:ESTY, B.C., KNOOP, C. and JR., A.S., 2005. The Equator Principles: An Industry Approach to Managing Environmental and Social Risks. Harvard Business School Cases, 9-205-114., ページ13