ソーシャル・パフォーマンス・マネージメントの市場

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このマニラの滞在記は、Living in Peace(http://www.living-in-peace.org/)の活動と、グラミン・ファウンデーションの「Bankers without Borders」プログラム(http://www.grameenfoundation.org/take-action/volunteer)の一環でとして行っている。
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今週の会議で思ったことは、「ダブル・ボトムラインを狙う事にマーケットはまだ反応していないが、グラミン・ファウンデーションは存在しない市場をつくるつもりなのだろうか」。

存在しない市場とはソーシャル・パフォーマンス・マネージメント(SPM)を気にする市場である。前回説明したグラミン・ファウンデーション(GF)の取り組みで現在のお金を請求出来ているのは、直接投資、不履行を保障する業務、それから、ローンの取引を自動化する為のコンサルティング業務。投資が「貧困層の軽減」に役立つ様にする為のコンサルティング業務、すなわちソーシャル・パフォーマンス・マネージメントはお金を取れていない。「貧困層の軽減」がマイクロ・ファイナンスの目的であるが、実情はMFIとしての経営の持続化と、投資の安全な回収に力が注がれている為だろう。SPMをすることに、投資を管理する投資銀行に意味を見出していないので、MFIにSPMを要求しない。同じ様に、MFIもSPMをすることが、経営の持続化と関係がないので、彼らもSPMをする必要がない。


「存在しない」と書いたが、SPMをコンサルティングする事にお金を取れている会社もある。前回説明したダンの会社だ。しかし、それはほんの一握りある。ここで、これらのコンサルティング会社やグラミン・ファウンデーション(GF)はビジネスのルールを変えようとしている。投資銀行に「SPMをきちんとしているMFIに投資をすれば、投資の安全な回収につながりますよ」とか、最低限「CSRとして意味がありますよ」と教育する。そして、MFI側にも、「SPMをすることは、MFIの経営の持続化につながりますよ」とか、最低限「MFIの存在する意味は、貧困の削減ではないですか」と議論する。彼らが無料でSPMのワークショップを行うことはこの為である。そして、願わくば、金銭の回収率だけでなく、社会的な貢献度合いもマイクロ・ファイナンスのディー・デリジェンシー(DD)に入れていくこともこれらのコンサルティングの会社やGFは望んでいる。ここでも、ナイーブに「いいことをしよう」という考えだけでなく(実はそうなのかもしれないが)、SPMを投資銀行やMFIが気にするようになれば、GFにも新たなビジネス・チャンスが回ってくる。ビジネスのエコシステムが広がっていくのである。


ソーシャル・パフォーマンス・マネージメントについては、GFで働きながら学んでいくので、その都度書いていくが、SPMは、社会的ミッションを実務に変換させる制度化したプロセスである。それは、社会的ゴールを決めることや、これらの目的への前進をモニターして、パフォーマンスと実行を改善するために情報管理なども含まれている。ほとんどのMFIsには明確なソーシャル・ミッションをもっているが、このミッションは計画的で管理された戦略の一部としてめったに進められない。マイクロファイナンスのソーシャル・ミッションは、自動的に行われているとしばしば思い込まれているが、実際は他の金融機関と同じく、戦略とは資金の回収する事だけである。金融のゴールと同様に、MFIsが社会的な業績を評価し、モニターし、管理することができれば、ソーシャル・ゴールをよりうまく達成することができるだろう。しかし、同時にそれを行うことが、不履行の削減や利益率の上昇などの金融のゴールの足かせにならないことも必要である。

GFなどは、まず「社会的ミッションを追求する事が、金融のゴールの足かせにならないこと」をワークショップなどを通じて広げていこうと思っているようだ。そのロジックは以下の通りだ。

マイクロファイナンスで「社会的ミッションを追求する事」とは、貧困の削減である。貧困がある地方のなどでマイクロファイナンスが進まない理由は、貧困層はローンを返却する能力がないとみなされているからだ。つまり、これは不履行するリスクが高くなる可能性があるので、「金融のゴールの足かせ」になりうる。しかし、GFのクリストファーさんは「地方の貧困層は返却する能力は低いかもしれないが、返却する意志は強いので、そこを見れば、不履行率が必ずしも上がるとはいえない」と言っている。地方では都市部と違い、複数のMFIが事業を行っていないというか、MFIがないところがほとんどだ。その状況では、貧困層は不履行をして、あるMFIのメンバーをやめて、別のMFIのメンバーになることはできない。つまり、セカンドチャンスがないので、不履行が許されない。この状況では、不履行しない意志は確かに強いかもしれない。前回紹介した神父ジョービックさえ、「今日半分しか家族が食べるものがない状態でも、不履行すると、次のローンをするのチャンスががなくなるので、不履行はするべきではない」と言っていた。

つまり、財務評価以外を見ることにより、貧困層に貸し付けを行うことが、思われているほど、リスクが高く無いことを証明できるかもしれない。SPMは「社会的ミッションを追求する事」を助け、結果的に財務の評価を落とさないかもしれない。そして、彼らは貧困層がいる地方で、マイクロファイナンスを推し進めることができるかもしれない。そして、SPMが「社会的ミッション」と「金融のゴール」の両立をすることを可能であることを証明することができて、それを投資銀行が理解するならば、SPMをすることの意味がMFI業界に現れて、GFなどの仲介業者やコンサルタントにも新しいビジネスチャンスが生まれるのだろうか。

別の見方をすれば、SPMが「金融のゴール」をの追求を助けるかどうかは長い目で見るひつようがある。環境問題に関わる立場から一つ例をあげよう。20世紀の終りの頃に、シティバンクなどの大手の銀行は環境に配慮しない投資に対して、避難をうけた。多くの学生は、シティバンクのキャッシュカードを切り捨て、シティバンクの利益は大幅に下落した。この事実をうけて、大手の金融機関は自主的にプロジェクトファイナンスを管理・モニターする仕組みを作った。赤道原則と呼ばれる、この仕組みはIFCのセーフガードをベースに作られて、500万ドル以上のプロジェクト・ファイナンスを行う場合、金融機関のシンジケートは環境・社会インパクトアセスメントを自主的に行うことが決めた。詳しくは、http://www.equator-principles.com/

赤道原則はCSRだが、彼らも過去の失敗から、環境・社会に配慮しないと、「金融のゴール」に影響をうけるのがわかってきて、強制されるよりはと、自主的に原則をつくったのだろう。赤道原則は縛りがないと批判を受けるが、彼らが、「環境と社会的ミッションを追求する事」にインセンティブは発生している。そして、もし、彼らがきちんと赤道原則に従えば、融資をうけて、プロジェクトを思考する団体へは、これらの投資銀行からのシバリが発生する。つまり、この段階で、「自主的」なものから、「強制力」がある取り決めになる。これは、MFIのSPMでも同じではないだろうか。投資銀行がSPMをCSRの一環として始めれば、それが自主的な物であっても、融資の条件として渡された時には、「強制力」のあるものへと移っている。

一年ほど前に、世界銀行が、赤道原則を元にした、ルールをMFIにも作る予定だ、といったニュースを読んだ。GFなどの、ローカルの仲介業者やコンサルタントは同じことをボトムアップで試みている。成功すれば、SPMコンサルティングの市場開拓なので、ここでもインセンティブが発生している。トップダウンにしろ、ボトムアップにしろMFI版の赤道原則を見てみたいな。