スパコン・プロジェクトと見た目じゃない気候変動のモデル

「それは問題だ」


地球シュミレーターが出来た頃、オックスフォードのパブで北米の学生とその話をした時にいきなり言われた言葉だ。


「何が問題なんだよー」


と言うつもりだったが、言わなくても何故彼が「問題だ」といったか分かっていた。日本にスパコンで負けるのは、アメリカには理由がなくともって言うか、何らかの理由をつけてまで問題になるのだ。

だから、「京速計算機で最速のスパコン再び!」の話がでた時は、「ヤレー!、ヤレー!」と応援したいたけど、こんな事になっていたんですね。

この「京速計算機」というのは、悪評高い「日の丸検索エンジン」を上回る、まさに戦艦大和級のプロジェクトのようだ。

そもそも、このプロジェクトの発端は、地球シミュレータの年間維持費が50億円と、あまりにも効率が悪く、研究所側が「50億円もあったら、スカラー型の新しいスパコンができる」という検討を始めたため、ITゼネコンがあわてて次世代機の提案を持ち込んだことらしい。事実、最近のスパコン地球シミュレータの性能価格比は、次のように桁違いだ:

名称 完成年  最高計算速度(TFlops)  建設費($)  TFlops単価($) 
TACC Ranger 2007 504 300万 6万
IBM Blue Gene/L 2004 360 1億 28万
Earth Simulator 2002 36 5.5億 1500万

この様な基礎「的な」研究も必要なのでしょうが、あまりにも予算が違いすぎてびっくりです。

これらのスパコンを使った「プロジェクト」で必ずしも予算が大きいものが成果や評価を上げているとは限らないので、少し考えることが大事かもしれませんね。例えばオックスフォード大学のclimateprediction.netは世界中の家庭のコンピューターをインターネットでつなげて気候変動をシュミレートしているわけですから、スパコンは一切使っていません。それでいて、成果や評価も上げています。

気候変動のシュミレーションについてもっと言えば、コンピューターの速度はある意味「諸刃の剣」になっている部分もあります。「ハイレゾの結果」を最速のスパコンが出しても、それが気候変動・温暖化の予測の精度を上げているとは限らないのです。しかし、「ハイレゾの結果」を見ると、いい結果が出ていると勘違いしてしまいます。少なくとも、ある英国の官僚の方はそれで、気候研究者から怒られていました。

ある意味、「シム・シティー」や「セカンド・ライフ」のグラフィックが向上したのを喜んで、「人工知能」に近づいたと勘違いしているようなものです。「見た目が大事」なの色恋の話だけでは無いんですね。

京速計算機どうなるんですかね。大金をはたくのですから、出来て数年で大したことないスパコンになっていないことを願っています。せめて、あの学生にどこかのパブで「京速計算機は問題だ」といわせるぐらいのものに仕上げてもらいたいです。




それに異議をとなえる外資を排除することで、御用学者は食物連鎖の末端でおこぼれにあずかっているわけだ。

特に情報産業のようにイノベーションの激しい部門では、人々や企業の目的を集計して計画を立てているうちに状況は変わってしまう。社会主義が重化学工業では一定の成果を上げたが、1960年代以降、イノベーションの速い情報産業に適応できなくなり、最終的に崩壊したのと同じことが、経済学と経済政策にも(40年遅れで)起こっているのである。