不確実なモデルは「英国の洪水問題」や「原発と地震問題」に役立つか

今日は英国は洪水の話題でもちきり。

オックスフォードは最悪の地域のひとつである。実際、うちのオフィスでも三人の家で床上浸水の被害にあいそうである。初めの予報によると、今朝でピークが過ぎるとのこと、それが、ピークの予想が10時になり、昼すぎになり、そのうち明日の朝のいつになるかわからないとの事。情報の消化不良を起こしながら、帰っていった人も。

さっき、その彼女に電話したら、今でもピークが過ぎたのかどうかわからないらしい。これらの予測にはどう決められたのだろう。仮に何かのモデルがあった場合こんな結果になって、そのモデルは信頼できるのだろうか。


普段の仕事でも「地球温暖化はシュミレーションで6度上がる」などと今でも聞くし。最近の日本のニュースで「シュミレーションでどこそこ原発が危険だ」と、言っている。


で、モデルやシュミレーションは信用できるのだろうか。役にたつのだろうか。


色々なEUのプロジェクトに関わっているが、CAVESプロジェクトでは、エイジェント指向といわれるシュミレーションが「環境と政策」を調査に役に立つか試している。このプロジェクトで、僕の役割はシュミレーションの検証、妥当性確認の為のコンセプトとガイドラインを作ることだった。この役割は僕が関わっている仕事の中で一番、アカデミックな作業である。




とにかく初めに、やろうとしているモデルやシュミレーションが役にたちそうかどうか考えてみた。以前にも書いたが*1、現実社会は「オープン」なシステムである。「オープン」とは、ひとつの事を説明するにも、数え切れない数の要素が関わっていることをしめす。気候変動・地球温暖化のモデルはいい例だ。

実験で二酸化炭素の濃度をが2倍になると、気温が1.2度あがる。しかし、現実世界ではそうはいかない。たとえば、二酸化炭素を二倍排出しても、それが海に溶けこんだりしたり、雲が気温を下げたりする要素も考えなくてはいけない。「オープン」なので、次から次と色々な要素がはいり込んでくる。特に「政策」なんて、生臭い物が絡んでくると、ほんとにモデルの結果に信用が置けるのだろうか、だろうか・・、ろうか・・・、うか・・・・、か・・・・・って、フェードアウトするわけにはいかない。



色々な苦悩の日々、葛藤の連続、スリル、サスペンス、そして、少しのロマンスの部分は省いて結論だけ述べると:「目的を決めれば、ある程度不確定性があっても」モデルやシュミレーションは役にたつ。


大まかにモデルの目的には二つの種類がある:

  1)何か未来の出来事の予測
  2)今のシステムや意志決定のロジックや前提条件の確認


1)未来の予測

いい例が「天気予報」。天気予報は完璧ではない。しかし、役に立つ。最終的には天気予報を見た人が意志決定をしなくてはいけないが、天気予報はある程度のガイドになる。例えば、「雨が降りそうだ、傘でも持っていくか」と独り言をいう助けをするって、いうより、用心(precautionary)するチャンスを与える。

これは、今回のオックスフォードの洪水でも当てはまる。不確定だが、「洪水が起こりそうだよ」といわれると、人は用心した行動を取れる。さらに、この予防原則(precautionary principle)は気候変動や持続可能な発展でも、基礎的な考えとされる。風邪の予防が、風邪をひいてからの治療より安くすむのと同じ。



2)ロジックや前提条件の確認

政策と環境の相互作用などといったら、とてつもなく不確定要素が多い。そのため、多くの前提条件、仮定が必要になる。その為、そのモデルを使った予測などあまり役にはたたない。この場合、モデルは未来の予測の為に使うべきではない。しかし、そのかわりに、モデルは前提条件、仮定を明確にする必要があるし、その前提条件、仮定を使った意志決定が論理的かどうか調べることができる。

たとえば、今回の地震原発の問題で、電力会社の人が「震度6地震では問題無いはずです」とか、「どこどこ原発地震が発生しても、問題は無いとしております」といった、発言をした場合。「あーですか」って、すぐにはいえない。それは、何を前提にそれらの発言をしたか定かではないのと、ある前提を元にした、彼らの意志決定が論理的であったかどうか計ることができないからだ。

現実的には、そう簡単に前提条件など教えてもらえないだろうが、ロジックや前提条件の確認の為のモデルは、政策などの意志決定の「透明性」と「腱固性」を増すことができる。




「シュミレーション」を独りよがりの「趣味レーション」にしないためにも、何の為にモデルが役に立つのか研究者やコンサルタントは考えるべきだ。この冗談が書きたいために、長々と説明してしまった。

明日は、洪水が収まっているのを願う。

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*1:「地球科学の数値モデルの証明、検証、および確認」http://d.hatena.ne.jp/euro-envi/20070413