「負けない為」の意思決定論が通用する分野

何十年も前から、Operation researchなどでCost-benefit analysisなどの効用最大化による意思決定論の代わりとして堅固な意思決定論があります。効用最大化とは「勝つため」の意思決定です。その頃の研究者達で、もっと守りの意思決定論もあってもいいのではと「負けない為」意思決定論として、「堅固な(robust)」意思決定論というものを作ってきました。

いまでも色々なところで参照される72年のRosenhead氏*1の文献を久しぶりに読んで見ると、方法論はいまだに通用するだろうが、いまだと導入部での『巨大企業のCEOには「堅固な」意思決定論が良い』見たいな部分は通用しないかもっと思います。

「堅固な」意思決定論が得意な分野は:

  • 不確定性な部分が意思決定に大きく関わる。
  • 長期的な意思決定の分野。
  • 競争の激しくない分野。
  • 絶対に失敗が許されない分野。


僕の関わっている、アフリカなどの貧困層が、この分野になると思います。気候変動や政治的要因など不確定性な部分が農業などの意思決定に反映する。競争は激しくないが、セカンド・チャンスもなく、失敗したら次の年の種が無い世界。


逆に言えば、「堅固な」意思決定論があまり役にたたない分野は:

  • 短期的な意思決定で、不確定な部分が余り関与しない分野。
  • 競争の激しい分野。
  • リスク・シェアリングが出来ている分野。


最近の短期間の利益の為に意思決定がくだし、保護されていない国際競争にさらせれている企業の意思決定では「負けない為」意思決定論をすべきではないでしょう。株式会社制度じたいがリスク・シェアリングなので、「勝つため」の意思決定をするべきだし、勝ち組の椅子が少ない世界では、「負けない為」意思決定論をしている企業に勝ち目はないでしょうね。何の業種にも手をつけてた大企業もスリム化していますね。


先進国で「堅固な」意思決定論が役立つ分野は、情報や交通インフラなどの長期的展望が大事で、国のサポートされている分野ですかね、と思ったがしかしである。「絶対に失敗が許されない分野」て事が強調されすぎで甘えが出ているかもしれませんね。

なんだか以下のブログを読んでそう思いました。

もうやめるはずだった地球シミュレータの「次世代機」が、なぜか190億円で開発されることになった。これを一般競争入札で「落札」したのはNECだが、応札したのはNEC一社だけだった。1150億円ものプロジェクトを随意契約で3社に共同発注した京速計算機と同様、スーパーコンピュータがITゼネコンの食い物にされているのだ。

いわゆる日本の高速道路の費用対効果(コストとベネフィット)の試算は、既に1990年代末に、旧建設省や旧運輸省によって、試算は終わっている。

何とかなりませんか、この手の公共事業の問題。


株式制度自体がリスク・シェアリングのシステムなので、どっちつかずな行動を取るより「気候変動が起こっていない」と信じたら突き進めば良いと思う。

一般の政策決定にも言えることだと思います。時代の流れが速い今日この頃、来年のことも完全に予想できるものではありません。政治家と分析屋は予想が出来ないと嘆くより、国民に「多様で不確定な未来」に対応できる力をつけることに集中したほうが良いでしょう。国の判断に頼りきりになっていては、困るの自分だと思います。

*1:ROSENHEAD, J., ELTON, M. and GUPTA, S.K., 1972. Robustness and Optimality as Criteria for Strategic Decisions. Operational Research Quarterly (1970-1977), 23(4), pp. 413-431.